第二部

あたらしい見方で社会をみる
中野信子✕長谷川愛
アーティストの長谷川愛氏の作品は、「スペキュラティブデザイン」と言われる。スペキュラティブとは「オルタナティブな世界のあり方や価値観を考える」と理解するとわかりやすいのでは、と長谷川氏は言う。いわば「ありうる未来の提示」である。マーガレット・アトウッドの小説『侍女の物語』を引用しつつ、「これはフィクションだが、現実の世界のなかにも同じ構造があるのではないか」と思わせるようなものだ、と中野信子氏は言う。中野氏は『古事記』のコノハナサクヤヒメとイワナガヒメの物語を引いて、花のようにわかりやすく売りやすいものに人々は群がり、石のように目立たないが自分の内面を深く掘っていく人が現代社会では評価されにくい。人間の意思決定システムには、早いシステムと遅いシステムがあるが、遅いシステムを評価する軸を失ってしまった。自分の置かれている状況をもっと長い時間で見る視座が必要であり、自分たちがいま準拠している価値観というものが本当に絶対なのかどうかを揺さぶる役割をコンテンポラリーアートは持っており、長谷川氏の作品の持ち味でもある、と指摘している。
中野信子
脳科学者

東日本国際⼤学教授、京都芸術大学客員教授。
2008 年東京⼤学⼤学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了
2008 年フランス国立研究 所にて博士研究員として勤務
現在、脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行っている。科学の視点から人間社会で起こりうる現象及び人物を読み解く語り口に定評がある。
長谷川愛
アーティスト

バイオアート、スペキュラティヴ・デザインなどの手法により、技術と人の関係を主題にした作品を制作している。 挑発的な作品群は倫理的な境界について鑑賞者に議論を促し、生殖と食事の未来に関連するテーマの作品が多い。代表作、(不)可能な子供、Shared Baby, Human X Shark,I wanna deliver a Dolphin...など。 2020年に『20XX年の革命家になるには──スペキュラティヴ・デザインの授業』を発行。2020年から自治医科大、京都工芸繊維大学特任研究員。