SUMMARY 第一部
渡辺茂

渡辺茂

私たちは顔とか体の情報がなくとも関節の動きだけで個人を特定したり、意図や感情、持ち上げた箱の重さ、その人となりすらもわかる。渡辺氏は、不自然でおかしな、ありえないような動きをヒトや動物がどう感じるのかを調べる実験を紹介した。例えば、かぼちゃの画像をみるとつつくように訓練したハトに、かぼちゃが飛ぶ動画をみせても、かぼちゃが飛ぶというのはありえないことなのでハトは反応しない。動物は「飛ばないもの」は「飛ばない」とわかっているのではないか。あるいはハトは自分の像を自分と認識するのかどうかということや、コンピューターグラフィックス(CG)やバイオロジカル・モーションを使って見せた同じ動物の像を動物はわかるのか。ユーモラスな研究でイグノーベル賞を受賞したこともある渡辺茂氏は、このようなさまざまな動物の知的能力を調べる比較認知科学を通して、人や動物が世界をどのように見ているかが解明され、知の多様性がわかっていく、と述べる。一方、「ヒトの動き」について紹介してくれた山本絵里子氏の研究からは、子どもはとても動きに敏感で、大人以上に「動き」というものを捉えているということがわかってきた。
渡辺茂
慶應義塾大学名誉教授
慶應義塾大学大学院社会学研究科心理学専攻博士課程修了。 文学博士(心理学)。慶應義塾 大学文学部人間関係学系教授を経て、現在は慶應義塾大学名誉教授。 主な研究領域は、実験心理学、神経科学、比較認知科学。主な研究テーマは、鳥類視覚認 知の神経機構、動物美学、海馬と空間記憶、動物の共感。主な著作に「認知の起源をさぐ る」(岩波書店)、「鳥能力」(化学同人社)、「美の起源」(共立出版)、「動物に心は必要か」 (東京大学出版会)。イグノーベル賞(1995)、日本心理学会国際特別賞(2017)、山階 芳麿記念鳥類学賞(2020)受賞。
Shigeru Watanabe
Professor emeritus, Keio University
Main research areas: Experimental psychology, Neuroscience, Comparative cognitive science
Main research topics: Neural basis of avian visual cognition, animal aesthetics, hippocampus and spatial memory, empathy in animals
Main publications: ”Origin of cognition”(Iwanami), “Ability of bird brain” (Kagakudoujinsya), ”Origin of aesthetics”(Kyouritsushuppann), “Do we need ‘mind’ to understand animal behavior?”(Tokyo Univ. Press).
Awards: IgNobel prize(1995), JPA International Award for Distinguished Research (2017), Ornithological Award in Memory of Dr. Yamashina Yoshimaro (2020)