SUMMARY
NSK Future Forum:SENSE OF MOTION
第一部


為末大

ハードル競技を通じて、二足歩行者である人間が最も合理的に動くにはどうあればいいかを探求してきた。その後、障害者スポーツに関わるなかで、身体の一部のパーツが置き換わることで、身体の可能性を広げることに着目している。現在はまだ健常者の記録のほうが早いが、パラリンピック選手がパーツをつけることで、健常者よりも確実にもっと早く走り、飛べるようになるだろう。短距離でいえば、カーボン製の義足は反発がよいのでスピードが早くなる。スタートダッシュでは足首があるほうが有利だ。現在「Xiborg(サイボーグ)」というプロジェクトを始め、競技用義足を製作している。義足づくりをしているとさまざまな学びがある。短距離選手は地面を踏んだときに跳ね返ってくる力を受ける途中に膝をうまく折って足を回転させている。この際に重要なのは足首のコントロールだ。しかし、義足の選手の記録をとると、その動きができないことがわかった。その結果、義足の走り方は将来、健常者とは異なる走り方になるだろうと思われる。もしかすると、将来は義足の反発を抑えるために上半身の力を使うようになり、体型が変わるかもしれない。
走りの仮説と検証を行える場として「新豊洲Brilliaランニングスタジウム」をつくった。将来、パラリンピック選手が練習しながら義足を調整して東京オリンピックを目指せるようにしたい。私のパートナーのエンジニア遠藤謙はいつも「障害というものはない。いつも技術の欠損が障害を生み出している」と言う。障害という言葉がテクノロジーの力でなくなる時、障害を持つ人々が早く走ったり、身体を動かすことを楽しめる未来がくるだろうと思っている。




川田十夢+座二郎

座二郎さんはサラリーマン漫画家で、通勤電車(地下鉄)の中で漫画を描く。川田さんは「SENSE OF MOTION」展でAR(拡張現実)を使った作品「箱男」を出品している。身体が動く中で漫画を描くということと、視点を変化させることで多様な読み取りが可能なARをつくるふたりの話は、「動きの中にどのようなあたらしい物語が生まれるか」について話している。
通勤の時間や視点の高低差からは物語が生まれる。テキストや物語は視覚的にも動きを持つことによって、新しい体験が生まれるのではないかと川田さんはいう。漫画の描きかたも電車の中で描くことによっても変わるし、読むものによって読む態度も変わると座二郎さんはいう。例えば、漫画は本で読まれることが前提となっているが、ネットなら見開きページはなくなっていく。いまを拡大していけば、“いま”という時間だけの物語が多数生まれる。よく知られた桃太郎という物語も、解像度をあげていくと登場人物の背景となるストーリーが拡大されていくかもしれない、という川田さんの意見に対し、一方で一枚の絵の中に物語や時間があるということもあると座二郎さんはいう。ふたりの制作物は異なるが、視点のパースペクティブは動きであり、その変化による物語の生成という点で一致している。




林千晶+山中俊治+栗栖良依

栗栖さんは、SLOW LABELというNPOで、企業や職人と障害者とクリエイターをつなぎ、ものづくりや場づくりを行っている。障害は社会の側のバリアであることが多く、障害者の側だけでなく、テクノロジーやアートを使い、あらゆる人が活躍できる社会の実現を目指している。多様性を受け入れる社会のためになにができるかという林さんの問いに対して、山中さんは、量産を前提としている現在のものづくりの仕組みから多様性を前提としたものづくりへの転換を提言する。山中さんは3Dプリンタを使用した「アディティブマニュファクチュアリング」に着目し、個々の人にカスタマイズされたものをつくる未来がくるだろうと予測する。また、動きの自然さは絶対精度ではなく、つながりの自然さによって生ずることから、3Dカムという仕組みを開発してさまざまな動きを実現しており、機械的な精度から人にとってどのような精度が必要なのかを見ていくのが次のデザインを目指している。工業社会のカンウンターパートとして、個人がいろいろなものをつくっていくことで違うものづくりの方法を考えようという「ソーシャルファブリケーション」と工業側からのあらゆる人向けに量産するがひとつひとつ違うものをつくろうという「マスカスタマイゼーション」が両輪となることが今後の解決策となるだろうと述べ、今後、多様性に対応したものづくりへと移行するだろうと語っている。




第二部


ティム・グールチェンス

グールチェンスは、家具デザイナー、ヨリス・ラーマンの有機的な形態の家具を実現するための技術を模索し、3Dプリンタでの家具制作へと発展させてきた。しかし、家具ほどの大きさになると、3Dプリンタの速度や大きさの制限、コストなどの課題があり外注しても高価になるため、自分たち自身でプリンタ自体を開発する会社「MX3D」社をつくった。彼らは中古の工業用ロボットを購入し、6軸で自由な形状がつくれるプリンタをつくりあげた。金属をプリントできるような溶接機械を取り付け、それを動かすためのソフトウェアも開発した。そして、この技術を使って、アムステルダム市内の運河に3Dプリンタで橋を制作中だ。当初は運河をまたぎながら現場でプリントしようとしたが、通行量が多いため、工房でパーツをプリントして後から据え付ける。3Dプリンタを使った土木建造物は今後増えていくだろうとグールチェンスさんは予測している。




真鍋大度+高橋智隆

「SENSE OF MOTION」展に作品を出品したライゾマティクスの真鍋さんは、ダンスと人とモノをテーマに作品を制作しており、ダンスに合わせて毎回ロボットやドローン、時には観客席など新しいことに挑戦している。一方の高橋さんは、小型の人型ロボットづくりに取り組んでおり、近年では小型の電話機ロボット「RoBoHoN」を開発している。プログラムは何万とつくって入力しており、基本的なコミュニケーションは、その中からロボットがある程度推測したり新しく学習したりしてコミュニケーションにつながるようにつくっているのだという。動きもプログラミングしているのだそうだ。真鍋さんは、今後、Googleでは検索しないような情報や感情をロボットとやりとりするようになり、そこにロボットに対する新しい感情とコミュニケーションが生まれるだろうという。ロボットは人が感知しえない高周波の音を感知できるので、緊急時に人を非難誘導するなどもできると高橋さんはいう。そうした新しい挑戦を、真鍋さんのようなクリエイターとこれから一緒に実験をしていきたいと語っている。




若林恵+スプツニ子!+猪子寿之

スプツニ子!さんは、MITメディアラボの「デザインフィクション研究室」で研究と学生指導を行っている。デザインを問題解決ではなく、見えない問題を探し出して提案していくものとして行う「スペキュラティブデザイン」という手法を使い、現在のテクノロジーが導きうる未来をデザインして問いかけている。例えばiPS万能細胞を使って、女性から精子をつくり卵子と受精させて子どもをつくることができれば女性どうしのカップルでも子どもを持つことが可能だというプロジェクトを実施。そのほかにも遺伝子組換えや倫理を壊していくようなプロジェクトを行っている。猪子さんは、現実空間とイリュージョンを混合させることで“境界”という概念を揺さぶる作品をつくっている。若林さんの現実社会の境界についての問いに対し、猪子さんは、トークの日がちょうどアメリカ大統領選の結果が出た翌日でもあり、ネットが出てきて実質的な境界の意味はほぼなくなってきているにもかかわらず、境界がなくても成り立たないという制度になっており、それがナショナリズムや国境などあらゆることを生み出しているのではないかと指摘している。「そもそもも人は体験でしか変われない」ので、境界がない体験をアートで抵抗しているのだという。スプツニ子!さんも、こういう時代だからこそ、アーティストはやりづらいこともあるが、逆にアートの意味があると思うと述べている。